2021年1月26日
アライブ世田谷中町は「アライブ事例発表会」において、『ターミナルからの脱却~おいしいものを食べに行こう~6つの基本ケア~』というテーマを掲げ、当社が現在推進している「AliveUP! (アライブアップ):元気になるケア」の発表で、2020年度の優秀賞をいただくことが出来ました。概要を披露させていただきます。
【目的】
「おいしいものが食べたい・・」
ターミナル期から改善されたご入居者のその思いに寄り添い、大好物の鰻をもう一度常食で食べて頂くことを目的とし、「AliveUP!」(元気になるケア)によって実現を目指しました。
【対象者、実施方法】
■調査対象:A様 90代 要介護3
■認知症高齢者の生活自立度:Ⅲ
■障害高齢者の日常生活自立度:A
■事例対象期間:2019年8月7日~2019年11月6日
【取組前の状況】
■水分 1,200㎖/日(制限)・・・心不全のため
■食事 軟飯・ペースト
■排泄 日中:トイレ(布パンツ、パット) 夜間:ベッド上(おむつ、パット)
■運動 セーフティウォーカー(歩行器) 1日1回(30M)
■離床時間 8時間未満
【課題と取り組み】
■課題
①覚醒状態
②食事状況
③睡眠状況
■取り組み
①6つ(運動、睡眠、減薬、水分、食事、排泄)の基本ケアの徹底
②義歯調整・咀嚼(そしゃく)練習
③入眠の把握
【実践内容】
①食事前に口腔体操・吹き戻し・咀嚼練習を確実に実施する。
②食べられた物と食べられない物を把握。別紙に記録する。
③咀嚼回数の日々の変化を見ていく。
④口腔内に溜め込んで飲み込めなかった残渣(ざんさ)物の食材を見ていく。
⑤食事の介入は介護スタッフが行う。評価表・②の別紙記入も介護スタッフが担当。
⑥毎日の体操参加と歩行器にて歩行訓練
⑦毎日の離床時間、睡眠状況の把握
⑧毎日水分1200㏄摂取し覚醒水準の向上
⑨朝食前体重測定・尿量測定
【水分の取り組み】
動悸、息切れ、疲労 ⇒ これらの症状は見られず
浮腫みの観察 ⇒ 手・足に浮腫みあり
体重の増減の有無 ⇒ 顕著な体重の増減は無し
尿量測定 ⇒ 飲水に対して尿量が多い
【食事の取り組み】
①ご本人の嗜好調査
②口腔体操・咀嚼練習の強化
・誤嚥(ごえん)を防ぎ、咀嚼機能をアップさせるために毎食前に個別で、口腔体操・するめでの咀嚼練習
・とじろー君、吹き戻し実施
(するめでの咀嚼練習の様子)
③KTバランスチャートによる評価
(*KTバランスチャートとは、ご入居者の口から食べる支援において、包括的な視点で多職種による評価とアプローチをするためのアセスメントツール。 「口から食べる」ための要素を13項目に分類し、それぞれの項目について5段階で評価を行い、全体のバランスを評価するためのもの)
口腔体操や嚥下(えんげ)訓練を始めたころ(緑線)よりも、1か月後(赤線)には円が大きくなっているのが明白です。
はじめは食事動作や食べる意欲がなく、当初から常にお声掛けを行い、一部介助で行なっていました。
1ヶ月後の評価時には自らスプーンを持ち自力摂取にて全量召し上がる事が出来るようになりました。
【運動の取り組み】
■取り組み開始前は、セーフティウォーカー(歩行支援機)での歩行を実施
→ 立位保持が可能であったことからU字歩行器での歩行練習に切り替えた。
■取り組み開始当初は3歩~5歩くらいの歩行状態であった。→ 継続していくにつれ、歩行状態は改善し、10月にはリビングから居室まで約40mの歩行が可能となった。
■離床時間も増やし覚醒を促した。ただ座ってTVや雑誌を見ているのではく、計算ドリルや、体を動かして頂いた。
■一人でいるのではなく、他ご入居者やスタッフも一緒にコミュニケーションを取り続けた。
【排泄の取り組み】
取組み以前からトイレでの定時誘導は行っていましたが、トイレでの排泄がうまく行えず尿とりパットを使用する事が多くみられ、夜間帯は尿量の多さからおむつを使用していました。
そこで、日中のトイレでの排泄が出来るようスタッフから、「トイレに行きましょう。」、トイレに座った際は「トイレに座りましたので、しっかり出しましょう」等の声かけを実施するようにしました。はじめは「わからない」と言われていたのですが、少しずつトイレの認知が回復し始め、「出た。」との発言も見られるようになっていきました。
その結果、日中はトイレに座れば排泄出来るようになり、夜間帯の尿量も減りました。
そうして、大パットから小パットに変更、おむつからリハビリパンツに変更できました。
【睡眠・減薬の取り組み】
取組み実施前は、夜間不眠である事が多く離床時間も8時間未満。
日中起きて、夜間にしっかり寝ていただけるよう離床時間を増やしていきました。
規則正しい生活を送れる様に、夜間帯の入眠状況を朝礼時にスタッフ全員に共有をし、日中活動的に過ごして頂けるように取り組みました。
夜間の入眠時間や、排尿間隔が次第に長くなり、良眠につなげる事が出来ました。
減薬については、睡眠導入剤や下剤等の内服は無く、医師の判断に基づき、ご入居者、ご家族と相談の上、治療薬のみの内服で減薬をしないということに至りました。
【実践結果】
日々の経過より、何とか鰻を食べることは可能だと判断することができていましたが、期間終了間際で体調不良となってしまい、食事摂取量の低下、覚醒の悪い日が続き、常食摂取が難しい状況になり、医師の判断のもと食事形態を元の軟飯・ペーストに変更することになりました。
しかし、A様のご意向に基づき、その思いをなんとか叶えたいというスタッフの思いは継続し、取組み期間後も日々寄り添い続けました。そうして徐々に体調も回復することができ、ついに鰻を食べていただくことができました。「おいしい」と嬉しそうにお召上がりになられるA様の笑顔を見ることができて、スタッフ一同胸が熱くなりました。
今回、事例発表のための取り組みに留まることなく、それを継続したことによって成果を実証することができました。そしてご入居者の思いを叶えることができました。これは、ご入居者の思いとご家族の同意、協力機関のご協力があってこそ実現できたことであります。ご理解とご協力に心より感謝申し上げます。
「AliveUP! (アライブアップ):元気になるケア」とは、ご入居者の思いに寄り添い「いきがい」を見出し、実現していくために様々な角度でサポートをしていくことであり、それが私たちホームスタッフの「やりがい」に繋がっていくことであります。今回の事例は、ご入居者の「いきがい」とスタッフの「やりがい」が相乗効果となりホームが一丸となり達成できた一例であります。
今後も、ご入居者の夢や希望を叶え、毎日を楽しく豊かにお過ごしいただけるよう、日々取り組んでまいります。
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