ホームと薬局の連携が、半年で薬を半分に。
2021年10月に行われた「介護付きホーム研究サミット2021オンライン 第9回介護付きホーム事例研究発表全国大会」におきまして、アライブ世田谷代田は協力薬局の株式会社グリーンエイト(セントラル薬局グループ)とともに発表を行い、グランプリを受賞しました。
発表のタイトルは、「薬を減らして、食事を増やそう ~医療介護のチーム連携によるADL(日常生活動作)向上・栄養改善の取り組み~」。ご入居されている高齢者が薬を飲みすぎている現状を改善し、食事を増やしていこうという取り組みです。
減薬は、ふたつの問題を解決しようという意図があります。ひとつは「高齢者における栄養問題」。食事量が落ちて低栄養状態になり、死亡リスクが上がっている高齢者が多くなっています。もうひとつは「ポリファーマシー問題」。薬を多く飲みすぎることで転倒が多く発生したり、低栄養の原因になっていたりすることが明らかになっています。
「減薬をすることで、ご入居者がお元気になられたのが本当に嬉しかったです。こういうこともあるんだと驚きました」
こう振り返るのは、アライブ世⽥⾕代⽥で介護スタッフを務める福永さん。福永さんには、ご⼊居者お⼆⼈の事例についてお話いただきました。
減薬でお看取り対応から持ちなおし
92歳の男性のご入居者は、在宅酸素を使い、食事量も低下していました。脳梗塞の影響によって右半身の麻痺が残るほか、前立腺肥大、逆流性食道炎などの病歴がある上、心不全も起こしたことがあって飲水制限も必要な状態。2020年にはお看取りの対応を開始していました。
ここから減薬の取り組みが始まります。福永さんをはじめとするアライブのスタッフが⾏っていたのは、ご⼊居者の⽇々の⽣活のサポート。食事のお世話、こまめな声かけ、むせこんでも大丈夫なようにする口腔ケア、ベッド上での体位の変化など、どれも当たり前のことかもしれませんが、ご入居者に楽しく過ごしてもらえるように心を砕き続けてきました。
「もともとお食事にこだわりのある方で、美味しくないものは食べたくないとはっきりおっしゃっています。今は美味しくて見た目も美しい介護食がありますので、ホームの食事とは別に個別で提供することで、食事に対する楽しみを持っていただきました。ラーメンが食べたいとおっしゃるときは、ラーメンをご用意してスープだけ楽しんでいただくこともありました」
2020年5月から減薬を始め、同年11月には認知症の薬、漢方薬、カリウムなどを減らして、薬は当初の半分ぐらいの量に。
「減薬の結果、生活に対する意欲を感じられるようになりました。笑顔も多くなりましたし、起きている時間も増えました。食事の量も増えて、以前はひと口ぐらいしか召し上がらなかったのが、3割から多いときは5割ぐらい召し上がっていただけることもありました。お看取り対応も必要なくなり、減薬によってこんなに変わるものかと驚きました」
欠かせなかった異業種との連携
もう一人は、102歳の女性のご入居者。SPO2(血中酸素濃度)が低下していて在宅酸素を始めており、食事量も大幅に低下していました。減薬を始めるにあたっては、日々の細やかな声かけと食事に関する工夫を欠かしませんでした。
「もともと食が細く、ポテトチップスが大好きな方でした。工夫としては、食事を大きなお膳でお運びすると圧迫感があるので、小鉢に分けて見た目を華やかにし、ひと口ずつ食べられるコース料理のようにして提供しました。ご家族と旅行に行きたいという夢をお持ちでしたので、日々細やかにお声かけをして活気につなげるようにしていました」
半年かけて薬の量を3分の1にした結果、食事の量が増加し、バイタルも安定して在宅酸素も外すことができました。
「ご本人様が酸素の管を嫌っていたので、それをなくすことができたのが嬉しかったです」と振り返る福永さん。欠かせなかったのは、異業種の人たちとの連携でした。
「減薬をリードしてくれたのは、セントラル薬局の⽅たちです。私たちはご⼊居者のちょっとした状態の変化について看護スタッフと情報共有を密に⾏い、看護スタッフが訪問医、管理栄養⼠さん、セントラル薬局さんと連携を取ってくれました。すべてのチームが連携していないとうまくいかなかったと思います」
連携のためには、職場としての雰囲気、伝えやすさ、相談しやすさなど、日々のコミュニケーションの取りやすさに気を配ったと福永さんは振り返ります。
「自分以外の職種の人が気持ちよく仕事できる環境が大切ですね。ちょっと思ったことでも気軽に話せること、それを親身に聞けるようにしておくことが、ご入居者の減薬や日々お元気に過ごしていただくことにつながっていると思います」
減薬の取り組みはアライブ全体で始まっています。介護スタッフと多職種が連携し、減薬によってQOLを向上させることはもちろん、⾷事の⼯夫がご⼊居者の生きる意欲につながることは、スタッフにとって⼤きな気づきになりました。
取材・文:大山くまお
※インタビュー内容やご年齢などは、取材当時のものです。
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